<第29回投稿 7月>

春になると…

瑞浪市教育委員会 教育委員 柴田 洋子

 先日、数年ぶりに家族旅行に出かけました。車内で「何歳の時はあそこ行ったね」「あの旅行の時、あんなことがあったね」など昔話に花が咲きました。その旅先で立ち寄ったサービスエリアで可愛らしい声が聞こえてきたので、ふと顔を上げると、ツバメの家族がいました。春の訪れとともに、ツバメたちがやってきて、巣を作り、子育てを始め、育った子どもたちが巣立っていく…。子煩悩な親ツバメたち、そして可愛らしい子ツバメを見ていると心が温かくなります。
ツバメは1年に二度子育てを行うことがあるそうなのです。子育てを終えて、ふと一息つきたくなりそうなのに、また子育てを行うツバメ。私もある意味、そんなツバメのように、今は2回目の子育てを行っているのかもしれないなとツバメたちを見て思ったのです。
教育委員として任命されたのは、3人の子どもたちが高校を卒業し、親元を離れていった頃でした。それまでは、3人の子どもたちが生活の中心で、あの頃はめまぐるしく毎日が過ぎていたように感じます。その子どもたちが巣立ち、1回目の子育てを終えて、私の2回目の子育てが始まろうとしていました。
教育委員として学校を訪問する機会がありますが、教育委員としての立場と、どこかでは“母親”としての立場から子どもたちを見る自分がいました。子どもたちの一生懸命な姿に我が子を見るような気持になっていました。教育委員として、学校での子どもたちの様子を見てきましたが、それが私にとって2回目の子育てのように感じたわけです。
しかし、2回目の子育ては、私がこの職に携わっているから特別にできるというわけでもないような気もしています。私に限らず、だれでもこの子育てに参加できるのではないかと感じています。ツバメが2回も子育てを行うことができるのは、オス、メス共同で巣を作り、メスが巣を守っている間にオスが食べ物を探しに行く、オスとメスが互いに協力して子どもを育てているからです。今、子育てをしている親たちを、私のように2回目の子育てができる人が協力するのはどうでしょう。何も特別なことをする必要もないのかもしれません。私が子どもたちを見て、我が子を見るような気持になったように、子どもたちに我が子のような眼差しを向けることでもいいのかもしれません。登下校をしている子どもたち、公園で遊んでいる子どもたち、地域で子どもたちを見かけたときに、挨拶をしたり、見守ったりすることでいいと思います。
オスとメスが協力して育て上げた子ツバメたちは巣立ち、広い世界へと飛び立っていくわけです。これから社会へ飛び立っていく未来ある子どもたちを、協力して育て上げる地域になっていくことを望んでいます。2回目の子育てをしてみようかなと思ってくださる仲間がきっといるはずです。わが子が増えていく、我が子の成長を見られるのは、素敵なことだと思いませんか。
また次の春には、巣立った子が、大空へ飛び立っていくことでしょう。

 

 

新たな学びを求めて

揖斐川町教育委員会 教育委員 折戸克明

 令和6年4月より、揖斐川町内にある学びの多様化学校・西濃学園高等学校でお世話になることとなった。38年間の公立小中学校及び事務局での勤務の後、揖斐川町教育委員を拝命しながら同町教育委員会学校教育課の会計年度任用職員としても勤務するという、えっ?と首をかしげたくなるような2年間を過ごしてから、新天地での生活が始まった。ここに至るには、現在は西濃学園中学校長で、大野中学校教諭時代の同僚でもあった先生からのお導きがあった…。
現在、西濃学園高等学校には、私の定年前最後の勤務地となった揖斐川中学校時代に関わりのあった3年生女子1名と2年生男子2名が在籍している。彼らに出会う前の私には、「4月がスタートし、私が西濃学園高校に赴任することを知った彼らが再び登校を渋ったりしたらどうしよう…」という不安があった。しかし、彼らとの出会いの朝、生徒玄関辺りの簡単な掃きそうじをしながら生徒を迎えていると、3年生女子が「あっ、やっぱり折戸先生ですよねえ…。昨日名前が紹介されたときに“もしかしたら…”と思っていましたよ。」と笑顔で握手に応じてくれた。2人の男子も握手に応じながら挨拶を返してくれた。
彼らとの出会いから、これまでの1~2年間で、西濃学園の先生方が、中学校時代に私たちが十分に与えることができなかった学校への安心感や居心地の良さを味わわせてくださったに違いないと、敬意と共に感謝の念を感じずにはいられなかった。
西濃学園の先生方は本当によく働かれる。常に子どもたちのことを優先し、自分の都合は後回し…、昼間はもちろん夜の寮生活までの見届け…、保護者から寄せられる相談への丁寧な応対と同時に進められる進路相談…、そんな中で常に大切にされているのは、スキルアップ研修を重ねながら臨んでみえる臨床的視点での生徒たちの心のケア…、非常勤の先生方や事務の方々も含めて、全ての先生方が自分から動き回ってみえる。
西濃学園高等学校で学ぶ生徒たちは、確実に過去に不登校を経験している。そんな子たちが、掃きそうじや草刈りをしている私に対して「ありがとうございます。」とよく声を掛けてくれる。西濃学園の目玉行事である夏山登山に尻込み気味の私に「オリちゃん、大丈夫だよ。とっても気持ちがいいから一緒に登ろうね。」と励ましてくれる。ちょっと頑張り過ぎてしんどくなって休憩している仲間のことを「今、リフレクションルームで休んでます。」と教科担任に教えてくれる。…などなど。本当にこの子も不登校だったの?と感じてしまうような場面がいくつもある。
公立小中学校勤務時代には、不登校の子をどこかで弱い子と捉えていた私がいた。しかし、今、私の目の前にいる子たちからは、過去の不登校という経験を乗り越えて、普通科高校となった西濃学園高等学校で自らの将来を切り拓くために学びたいという固い決意をもって入学してきていることからくる強さを、私は感じている。
新年度のスタートにあたり、北浦理事長から「日本で最も心温まる学校!“子どもたちの元気の回復”と“自分で飯を食べていける力をつけることができる教育”を…。」という訓辞があった。このスローガンを真正面から受け止め、一枚岩での力強い歩みを刻んでみえる先生方の仲間に入れてもらいながら、強い子どもたちを育て上げるためにはどんな秘訣があるのかを探るための新たな学びに、楽しみながら挑み始めている今の私がいる。