<第40回投稿 6月>
「松寿千年翠」(しょうじゅせんねんのみどり)
海津市教育委員会 教育委員 大津由佳
茶道体験のボランティアとして地域のこども園で活動を始めて20年が経ちました。そこで園長先生からこんな話を聞きました。
「年度末の発表会では、団体での劇や歌などの出し物を減らしてみました。クラスの思い出を大きな紙に表現し、役割分担をして発表したり、また、できるようになったことを自分の言葉で伝えたり、すべての子が話す時間を作りました。」 ということでした。
団体の練習では、全体の足並みをそろえるための指導が続きます。先生はどうしても見栄えを意識した指導になってしまう。そうなると苦痛を訴え登園を嫌がる子も出てきますし、できる子できない子の差がついてしまう。それは、本当に子どもたちの成長につながることなのだろうか…改めて考え、すべての子にスポットライトが当たる発表会にしようと、この形にしたのだとお話しくださいました。しかし、園に通う子どもの家族から、「見ごたえのない発表会だった」という声もあったようです。いわゆる『発表会』のイメージを持って楽しみに出かけた家族には、そんな風にとらえられたのでしょう。また、今こそ団体活動を通して学ぶことが必要なのでは?という声もあるとのこと。子どもの育ちは、私がここへお伺いするようになってからの20年前と比べても、成長は全体的に遅くなり、個々の差も開いているように思います。
一人ひとりの個性を尊重して育ちを見守っていこうという社会風潮の中、先生たちは、これからを生きる子どもたちにどんな力をつけてあげられるかと試行錯誤され、「子どもたちのための挑戦」をされていることを改めて知りました。
茶席に掛かる掛物の言葉に、「松寿千年翠」(しょうじゅせんねんのみどり)という禅語があります。松は時代を超えて青々としている、との意味です。ただその奥には、誰に気づかれることがなくても、新しい葉を出し変化を繰り返している。そしてその小さな変化があってこそ、不変の常緑の姿を保っている。桜や紅葉のようにもてはやされることはなくても、常に堂々とそこにある姿への敬意がこめられています。この言葉に、教育に携わる方々の姿を想います。コロナのパニックを乗り越え、様々に変化の絶えない社会の中で、どれだけの苦労をされ、工夫をされて乗り越えておられることでしょう。目の前の混乱や一時の評価に惑わされず、本当に大切にするべきものを忘れずに代謝を繰り返していく事が教育の姿であると思うのです。
生きていく力を育む
白川村教育委員会 教育委員 神田英美
「子どもには様々な体験を」教員をしていた母がよく言っていました。体験活動に「「 社会を生きぬく力」として必要となる基礎的な能力を養う効果があると認識される中、学校や地域においても多様な取組がなされています。しかし家庭での体験と考えたときに、どうしても旅行や習い事のような、非日常的なものをイメージしてしまいがちですが、それだけが特別な体験ではないと思っています。
私の母は休みの日も多忙で、一日中家にいたという記憶はほとんどありません。旅行に出かけたこともありましたが、鮮明に覚えているのは、たまに夕飯を一緒に作ったこと。苦手だったなわとびの練習につきあってくれたことなど、自分が挑戦したいことを応援してくれたことです。「「工夫したことは?」「どうすればうまくできるかな?」「何が難しかった?」など自分で考え、次にその体験を活かせる会話をしてくれていたな、と
今になって感じています。親の意識と少しの時間の確保で、日常の場が子どもにとって貴重な体験の場になっていくと思います。
教育の礎は家庭です。しかし、各家庭のライフスタイルや親の得意不得意で、どうしてもできないこともあると思います。そういった部分を学校や地域、友人に補ってもらいながら、私自身が親となった今、様々な体験を子供と一緒にできる環境にいられることをありがたく感じています。与えるだけではなく、逆に子供たちから与えてもらった感動体験もたくさんあります。体験の場では、子どもたちが自ら選択して考え、その中で学び、試行錯誤することを大切に考えてきました。成功体験は自己肯定感を高めます。好奇心や学ぶ意欲も向上します。しかし、時には失敗もするでしょう。しかし、成功と失敗を積み重ねて培った心は、失敗してもめげずに、更なる高みを目指して様々なことに挑戦することにつながるでしょう。
これからの変化していく社会を生きぬく力をもった子どもたちを育むために、学校、地域、家庭、行政で連携をとりながら、子どもたちの感情に寄り添う教育を展開していくことができるように、尽力していきたいと思っています。